今年に入ってからアメリカで人工知能(AI)弁護士と言われるものが誕生しています。
米大手法律事務所、破産法担当としてAI弁護士を世界で初めて導入
19歳が作ったチャットボット、「AI弁護士」が16万件の駐車違反を無効に
グローバル化は、大きな外部環境の変化ですが、テクノロジーによるイノベーションも場合によってはグローバル的な地政学的な力学をひっくり返すほどの力を持っていますので、逃げ切りができず逃げ切るつもりもない若い組織のGVAとしては注目しておかないといけない分野です。
日本でも人工知能(AI)弁護士は可能かということを、人工知能学者や有識者にヒアリングしてみたので、仮説を立ててみました。
考える軸は、「弁護士業務を区分し業務フローも可能な限り分解し、既存若しくは未来のテクノロジーを突合させて、コストパフォーマンスも含めて、どの領域でレバレッジが効くか」ということを検討していくのではないかと考えました。
まずは弁護士業務を区分してみます。アメリカは行政書士、司法書士、社労士、弁理士等の資格がなく、すべて弁護士という資格のカテゴリーで括られていることから、日本に引き直して考えると、弁護士業務に加えて、行政書士、司法書士、社労士、弁理士も含めて業務区分をすべきです。
最近では、登記業務や社会保険業務をIT技術によって、機械化するベンチャー企業も出てきています。登記業務や社会保険業務は手続業務であるため、IT技術との相性は非常に良いと思います。ただ、役所が絡む手続であるため、少しのミスも許されず、パターンも多いことから、完璧に稼働させるハードルは高いのではないかと思ってます。
意外と即効性のあるAI弁護士開発のチャンスがあるのが行政書士の分野なんじゃないとかと考えてます。交通違反切符のAI弁護士bot開発のアプローチです。行政書士の仕事は1万種類以上あると言われているため、ある程度、機械的な判断ができ、既存のbot技術等でレバレッジが効く分野があるような気がします。この作業は士業のビジネスモデルを考える思考パターンとほぼ同じだと思うので、士業業務に理解が深い士業のアイデアと既存技術組み合わせで多数の人に使われるAI弁護士botが生まれてもおかしくないと考えてます。
逆に、離婚事件のような弁護士分野はまだまだハードルが高いという印象です。一般的な離婚事件の業務フローは次のとおりです。(テクノロジーとの突合のために簡略化してます)
a、依頼者の意向を確認する
b、当該案件の事実の把握と証拠の収集
c、当該案件に関する法律と判例のリサーチ
d、事実、法律と依頼者意向を組み合わせて主張を組み立てる
離婚業務において平均的な弁護士を超えることを目標に置き、一つ一つ検証していきます。
① 当該案件に関する法律と判例のリサーチ
まずcについては、法律や判例検索システムの応用で、大量のデータをAIに食わせることで、比較的、当該案件に適合する法律と判例をリサーチすることが可能な分野ではないかと思います。これは実は技術的にはもう実現しているのではないかと個人的には思ってます。
② 当該案件の事実の把握と証拠の収集
次にbについては、当該案件を類型化して、事実をヒアリングしたり、収集すべき証拠をピックアップする力は、一定数の離婚裁判のデータを収集して人工知能に食わせると、それなりにヒアリング力とピックアップ力はつくような気がするので、こちらについてもWatsonレベルの高度なコグニティブ・コンピューティング・システムをベースとして開発すれば、比較的実現可能性が高いのではないかと思ってます。こちらはRossの破産法担当弁護士のアプローチと同じではないかと思ってます。
③ 依頼者の意向を確認する
aについては、結構ハードルが高いんじゃないかと思います。離婚事件における解決のための大きな要素としては「依頼者の意向」が必ずあり、それは必ずしも「経済的な合理性」だけで割り切れるものではないため、非常に個別性が高いのではないかと思います。Pepperのような感情認識エンジンを持つようなAIアプリの開発が成功すれば、これらと離婚事件における依頼者意向ビッグデータを組み合わせれば、もしかしたら可能になるかもしれませんが、人間の感情まで出てくると、まだイメージがわきません。
④ 事実と法律を組み合わせて主張を組み立てる
最後にdについて考えてみます。dはa,b,cを総合的に考慮して判断する力が必要です。
離婚事件は、依頼者の感情と法律・判例の解釈、経済的な合理性がぎちぎちとぶつかり合う場面が多く、a,b,cがあった上で、しっかりと組み合わせてバランスをとる力に加えて、相手方依頼者の意向、相手方弁護士の性格、担当裁判官の判断の傾向等まで考慮に入れて主張を組み立てないといけないかもしれません。相手方依頼者、相手方弁護士・担当裁判官のビッグデータを集めれば、もしかしたら可能なのかもしれませんが、一番のハードルは「法律の解釈は関係者が納得するものでないといけない」ため、AI弁護士が出した法律の解釈、結論を果たして関係者が納得して受け入れることができるかというのが最大の障壁になりそうな気がします。
まだまだ士業の代替というためには、いくつもハードルはありそうですが、税理士・会計士の分野では、クラウド会計が出てきたりで、少しずつ便利になってきているので、弁護士業務の分野でも今後は何か動きがあるかもしれません。